文字とか絵とかもうなんでもありのたらたらブログ。 主に創作や版権感想など。予告なく過激表現が出現する危険もあります。御了承ください。
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はてさて、台風ですねえ。
雪崩の学校は無事、午前中休講で、午後からになりました。 え?そんなそんな。サボりましたよ。モチベーションが上がらんかった。 それにしてもいい天気だ。 さて、そんな雨だか晴れだかわからんお天気。 こういう趣向はどうでしょう? 全てを完全に読者に頼る感じ。登場人物も、結末も、お任せアソート万歳。 学校で買った傘、なんか穴が開いていた。家に帰って即ゴミになった。 そんな日の周辺に書いたんです。 ======================================================================== 降りしきる雨を、足に絡ませながら歩を進める。 差したカサから、ぽたぽたと透明な水滴が散る。とても綺麗だ。
目の目を通る雨だれを、ひとつ、ふたつ、数え始めてすぐに忙しくなってやめた。
代わりにいっぽ、にほ、歩数を数えてみる。
にじゅうさんぽ、にじゅうよんほ、にじゅうごほ。歩いた所で隣で声がした。
不快指数、100。
<百歩先に晴れ> 「雨の日にお散歩かい?珍しい」
いちにいさんし。ぱしゃぱしゃ、水溜りを蹴散らす。
「おやあ、避けてる?ねえ」
せっかく足を速めたのに、のんびりした声は離れてくれない。
じゅういっぽ、じゅうにほ、じゅうさんぽ。歩調を戻して、あきらめてカサを傾けた。
「ああ、やっとこっちを向いた。ごきげんいかが?」
はあ、と雨より重いため息を一つ、返事の代わりにした。
この雨だというのに、カサも差さず、なのにさして濡れた様子もない。
ふわふわと笑っている、その能天気な笑顔にもう一つ、ため息をついた。
「……カサは」
にじゅうさんぽ、にじゅうよんほ、にじゅうごほ。ぱしゃりぱしゃり。
「どっかに行っちゃった。……どこだろう、困ったね」
言葉とは裏腹に、大して困っていない調子で、言う。
「カサがないと、濡れるのにねえ」
雨に良くなじむ声が、楽しそうに歩を進める。
歩みに合わせて、ぱしゃぱしゃと水が散る。灰色の空。落ちる透明の水滴。
少し傾けたカサから、落ちる雨だれは速い。ぽたぽたと、じゅうまで数えてあきらめた。
「どこ」
追いつけない速さで、ぱたぱたと雫が落ちる。一瞬だけ、透明に光って丸く落ちていく。ぽたり。
「ん?何が?」
「カサ」
ざあ、と、雨の音が、一瞬大きくなって、すぐ戻った。
「口数少ないねえ。雨は嫌い?」
「嫌い」
部分部分はきれいだと思うことはあるけれど。重くて苦しい。
「ああそう?残念」
全然、残念そうな声ではない。表情も、相変わらずの能天気な笑み。不思議と雨によく似合う。
「雨は、濡れるからねえ」
言う割りに、雨を避けようとはしなかった。だがひどく濡れた様子もない。
さあさあと、雨は降り続いている。
何も言わない。ただ水を蹴散らす。
ぱしゃぱしゃと、もうどれ位歩いたのか、わからなくなっていた。
「万華鏡」
唐突に、呟いた声が雨に響いた。
「万華鏡みたいだって、思うのさ」
声が、雨を呼ぶ。雨の音が、強くなる。
「雨の一つ一つは丸い水滴で、水滴の一つ一つは鏡のように、景色を映しこんで落ちていくのさ。
水滴は水滴を映して、景色は景色を呼んで世界を映す。雨に囲まれるということは、千の、万の、無数の世界に映り、また世界に囲まれるということ。そう思うのさ」
降る雨は、白く絹糸のよう。水溜りに落ちて輪を描く。
カサから落ちる水滴だけが、ぽたぽたと丸い。
万華鏡は、見えない。
「世界で一番、大きくてきれいな万華鏡じゃあないか」
同じ場所にいるのに。見ているのは、違う世界。
嬉しそうな表情が、灰色の空を見上げる。
無数の景色を。無数の世界を。美しい万華鏡を生み出す、全ての源を。
「ああ、そっか」
ぱしゃり、水を散らす音が止んだ。空を見上げているその顔から、能天気な笑みが消えていた。
「ああ、そうか、これが。これが見たくて。だから。思い出せなかったんだ、だから。だから、でも」
ふと言葉を切って、こちらを向く。
浮かんでいるのは、ちょっと困ったような、笑みだった。
「濡れたら困るのに、ねえ?」
「……そうだよ」
頷きを返す。苦笑が微笑に変わる。
そしてその視線が、ふとこちらの右手に落ちた。
「ああ――、」
雨音が、遠くなる。
「ああ、そうなの」
ようやく。
本当にようやく、気付いたようだった。
ふわふわした頼りない微笑が、くっきりとした笑顔に変わる。
「ありがとうね」
その言葉と共に。ずっとずっと、差し出し続けていたカサが、やっと、受け取られた。
「どういたしまして」
ぽつぽつと、何もなくなった頭に、雨が落ちる。
意外にも、不快では、なかった。
いっぽ、にほ、さんぽ。
いつの間にか数えるのをやめてしまっていた歩数を、もう一度最初から数えなおす。
じゅういっぽ、じゅうにほ、じゅうさんぽ。
隣には、いつの間にか誰もいなくなっていた。
カサはない。だから灰色の空を、まっすぐ見上げながら歩く。万華鏡の、源。
にじゅうさんぽ、にじゅうよんほ、にじゅうごほ。
ぽたぽたと、髪の間から水が垂れる。
それでも、一歩進むたび、降りしきる雨は弱くなっていく。
糸のようだと思っていた雨は、ふわふわと、重さをなくして地面に落ちる。
ごじゅうごほ、ごじゅうろっぽ、ごじゅうななほ。
歩く歩く。目的地は、ない。ただ世界を歩く。
景色に囲まれた景色の中を。
世界に囲まれた世界を。
万華鏡は、見えない。それでも、雨はもう嫌いではない。
きゅうじゅうななほ、きゅうじゅうはっぽ、きゅうじゅうきゅうほ。
歩く。
丁度ひゃっぽ。
数えた所で、雲から日が差した。 (終) PR |