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そういやあ、携帯に打ち込んだままずっと放置していたのを、思い出しました。
現実逃避がてらにのっけちゃうよ。


うちねこの後日談的な。
「彼」を出したかっただけの産物なのだというか。

ていうか、季節外れはなはだしいというか。

ねっ。


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五月晴れのゴールデンウィーク。
見知らぬ青年が武東を訪ねてきたのは、その初日のことだった。
「武東さんて方、いらっしゃいますか?」
青年が戸口に立った最初、道に迷ったのかな、と思っていたのだが、どうやら違うようだ。
そもそもここは、観光客がふらりと訪れるような土地ではない。
ましてやこんな今どきの若者にとってはなおさらだ。
だが武東にこの青年に見覚えはなく、指名される覚えはもっとない。
「武東は自分ですが…」
若干戸惑いながらも武東がそう応えると、青年がいきなり頭を深く下げた。
「えと、」
茫然。継ぐ言葉が見つからない。
「先月は、家の者が大変お世話になりました。」
家の者?
尚も武東がピンと来ないでいると、「その」と青年は言いにくそうに続けた。
「うちの…母と、…猫、が。…その、御迷惑を」
「!もしかして、か、月下部さん、ですか!?」
瞬間、武東の脳裏に、大きな黒猫と、それを抱いた春風のような女性の姿が蘇った。
先月、うららかな春に起きた猫の誘拐事件。…その他にも《色々》あった一連の事は、そう忘れられるものではない。
そして、この青年が月下部京花のことを《母》と呼ぶということはつまり。
この青年が次期月下部13代目であり、「東京の名門私立大学に通う、大学生の息子」なのか。
「話は母と、柏葉に聞きました。それで、お詫びと」
御礼に、と言いながらぎこちなく菓子折りの包みを差し出すその様子には、ごくごく普通の大学生、といった印象しか感じられない。
これまで接してきた「その筋」の人間は、皆一目でそうだとわかる服装やオーラを飛ばしまくっていたものだが。
京花といい、この青年といい、月下部の人間は誰もが「こう」なのだろうか?
「お詫びとか、御礼とか…そんな別に、僕らは警察官ですから。その職務を全うしただけです。」
「…職務とか、そういうんではなくて、」
「はい?」
「うちのような稼業やっている家の人間の…しかも猫のことなのに、全然、一生懸命捜査して頂いて。
すごく、嬉しかったって、母が言っていました。何度も、何度も言うんですよ。」
「それは、」
偶然が重なってしまったせいなのだとは、言えなかった。
「自分は幸い、この土地から離れて、今はただの大学生として生きていますけど。ここに帰ってきたら、やっぱり《月下部》の人間なんですよね。だから、武東さんのような方が、嬉しいです。渡良部さんも、気持ちの良い方のようですし。」
何を思い出したのか、そこで青年は小さく微笑む。
「これからも、懲りずに月下部を、できる範囲で、よろしくお願いします。」
では、渡良部さんという方にも、よろしくお伝えください、と言って去り際に頭を下げる。その仕草が京花に似ていた。
「あ、あの、」
「はい?」
「キミも、きょ、お母さんも、黒丸君も……何かあったら、気軽に来てください。待ってますから。」
だから、だろうか。懲りもせずに、似たようなことを言ってしまうのは。
だが、不思議と後悔はない。
「また来てください。」
「――ありがとうございます。」


五月の風は、先月のものより乾いていて、とても軽やかである。



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いつかもう一人と渡良部の方の話も書いてみたいである。
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