文字とか絵とかもうなんでもありのたらたらブログ。 主に創作や版権感想など。予告なく過激表現が出現する危険もあります。御了承ください。
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そういやあ、携帯に打ち込んだままずっと放置していたのを、思い出しました。
現実逃避がてらにのっけちゃうよ。 うちねこの後日談的な。 「彼」を出したかっただけの産物なのだというか。 ていうか、季節外れはなはだしいというか。 ねっ。 ====================================== 五月晴れのゴールデンウィーク。 見知らぬ青年が武東を訪ねてきたのは、その初日のことだった。 「武東さんて方、いらっしゃいますか?」 青年が戸口に立った最初、道に迷ったのかな、と思っていたのだが、どうやら違うようだ。 そもそもここは、観光客がふらりと訪れるような土地ではない。 ましてやこんな今どきの若者にとってはなおさらだ。 だが武東にこの青年に見覚えはなく、指名される覚えはもっとない。 「武東は自分ですが…」 若干戸惑いながらも武東がそう応えると、青年がいきなり頭を深く下げた。 「えと、」 茫然。継ぐ言葉が見つからない。 「先月は、家の者が大変お世話になりました。」 家の者? 尚も武東がピンと来ないでいると、「その」と青年は言いにくそうに続けた。 「うちの…母と、…猫、が。…その、御迷惑を」 「!もしかして、か、月下部さん、ですか!?」 瞬間、武東の脳裏に、大きな黒猫と、それを抱いた春風のような女性の姿が蘇った。 先月、うららかな春に起きた猫の誘拐事件。…その他にも《色々》あった一連の事は、そう忘れられるものではない。 そして、この青年が月下部京花のことを《母》と呼ぶということはつまり。 この青年が次期月下部13代目であり、「東京の名門私立大学に通う、大学生の息子」なのか。 「話は母と、柏葉に聞きました。それで、お詫びと」 御礼に、と言いながらぎこちなく菓子折りの包みを差し出すその様子には、ごくごく普通の大学生、といった印象しか感じられない。 これまで接してきた「その筋」の人間は、皆一目でそうだとわかる服装やオーラを飛ばしまくっていたものだが。 京花といい、この青年といい、月下部の人間は誰もが「こう」なのだろうか? 「お詫びとか、御礼とか…そんな別に、僕らは警察官ですから。その職務を全うしただけです。」 「…職務とか、そういうんではなくて、」 「はい?」 「うちのような稼業やっている家の人間の…しかも猫のことなのに、全然、一生懸命捜査して頂いて。 すごく、嬉しかったって、母が言っていました。何度も、何度も言うんですよ。」 「それは、」 偶然が重なってしまったせいなのだとは、言えなかった。 「自分は幸い、この土地から離れて、今はただの大学生として生きていますけど。ここに帰ってきたら、やっぱり《月下部》の人間なんですよね。だから、武東さんのような方が、嬉しいです。渡良部さんも、気持ちの良い方のようですし。」 何を思い出したのか、そこで青年は小さく微笑む。 「これからも、懲りずに月下部を、できる範囲で、よろしくお願いします。」 では、渡良部さんという方にも、よろしくお伝えください、と言って去り際に頭を下げる。その仕草が京花に似ていた。 「あ、あの、」 「はい?」 「キミも、きょ、お母さんも、黒丸君も……何かあったら、気軽に来てください。待ってますから。」 だから、だろうか。懲りもせずに、似たようなことを言ってしまうのは。 だが、不思議と後悔はない。 「また来てください。」 「――ありがとうございます。」 五月の風は、先月のものより乾いていて、とても軽やかである。 ============================== いつかもう一人と渡良部の方の話も書いてみたいである。 PR |