文字とか絵とかもうなんでもありのたらたらブログ。 主に創作や版権感想など。予告なく過激表現が出現する危険もあります。御了承ください。
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だめだ、追いつけない!
でも何とか頑張るぞ。 あと、就職先が見つかりました。 で、続きから、 二十三日に載せる予定だった、第二章。 第二章 2月22日
――そう、決めた筈じゃないか 意識がゆっくりと浮上する途中で、不思議な夢を見た、と思う。 止まった時の中にするりと入り込み、あれやこれやと喧しく注文を付ける掌ほどの大きさのモノ。 ずっとずっと、流れの止まった二十二日の中に住んでいると思い込んでいたら、『それ』が今日は二十二日なのだと告げる。 二十二日。 僕が住んでいるのは、二十二日で。 本当の外側は、二十二日で。 それに僕を気付かせたのが――、 「……あ?」 ごく小さな物音が、夢と覚醒の狭間に居た意識を一気に引き戻した。 静けさに慣れた聴覚は僅かな音にも過敏に反応する。音の方向にあるのは、リビング。 一気に覚醒した頭が、ふと昨日の二十二日の記憶を伝える。 横暴な口調で人の時間に入り込んできた、掌ほどの大きさの。幻というにはあまりにもリアリティに充ちた。 ――現実か。 そう、『それ』は夢が作り出した幻などではなく、現実なのだという事を僕は思い出す。 ベッドから起き上がって居間の方へ行くと、やはり『それ』が、どこから持ってきたのか黒のマジックを抱えて宙に浮いていた。 「オゥ、おそようさん」 僕の足音を聞きつけて、振り向いた『それ』がニヤリと唇の端を持ち上げる。 「……おはよう」 また『それ』が何事か喚き始めない内にさっさといつもの生活を始めようと洗面所へ向かった。『それ』の横を通り過ぎる時、何か言われるかとも思ったが以外にも『それ』は黙ったまま、ただ妙に愉快そうな顔をして僕を見送った。 着替えて、歯を磨き、顔を洗い、その他身支度を整える。 今日は、カーゴパンツに、インナーの上からパーカーを羽織った。そしてマフラーをしっかりと巻きつける。 居間に戻ると、『それ』はまだマジックを抱えたまま同じ場所に浮かんでいた。 ……何がしたい? 不審には思ったがそれ以上には何も感じず、そのまま『それ』の横を通り過ぎようとした時、しかし僕の頭の片隅を、何かがちりりと掠めた。 ――何だ? 脳への僅かな違和感。それが視覚から伝達されたものだと気付いたのと同時に、僕は『それ』を振り返った。 正確に言うならば、その、後方の壁を。 「よぉ、ようやく気付いたのか、遅ぇな」 満足そうな『それ』の声が聞こえる。 雪に覆われた真っ白な山と。真っ赤に存在を誇る南天の写真の。 二十一日まで丁寧に赤いマジックで潰された、時の止まったカレンダー。 その、 その。 二十一日の隣の二十二日が。 黒い歪んだバツ印で潰されていた。 それを背景に、得意そうにマジックを抱えて僕を見る『それ』。 「――なに、を、」 息を吸い込んだ喉は、自分でもどうしたのかと思う程に震えていた。 「何をするんだッ!!!」 訳も分からず、久々に頭に血が上った。 本当に、訳が分からなかった。 落ち着かねばと思うが、徒に浅い呼吸を繰り返す身体は意志の通り動かず、それで僕は余計平静を失った。 「ふざけるな!お前は、お前は一体、何がしたいんだ!?俺の、」 「なぁに怒ってるんだよ?」 すぱん、と斬って落とすように、『それ』の声が僕の怒声を遮った。 怒りと混乱で白くなりかけた視界の向こうで、『それ』が心底不思議そうに大きな丸い目を瞬かせている。 「今日は二十三日じゃねえか。昨日は二十二日。だったら今日は二十三日。折角続けてることなら、続けた方が良い。何がおかしいンだよ」 「……それは、」 今日は、今日だから。 でも、しかし、 いや、それでも、 「――だって、」 結局、憤りは言葉を見つける事が出来ず、僕は言葉を失ったまま黙った。 それは、そうだ。 正しいのは、僕じゃない。そんな事判っていた筈だった。 世界は僕を取り遺して回っている。それでも良いと。そう決めたのだから。 だから、二十二日の次の今日は、二十三日でいい。 良いのだ。 今日は、二十三日。正しいのは僕じゃない。 ――でも。 本当に、それで良いのか? 本当は、違うんじゃないか? 頭のどこかで、声がした。 今日が二十三日であると納得しようとすればする程に、声は強く力を持つ。 二十三日なんて来なくていい。 永遠の二十二日を生きるんだ。 本当は、 本当は、 お前は、 「もうすぐ、二月も終わんだな」 ぽつんと、部屋に声が落ちた。 一瞬で、こちら側に引き戻される。 「……え」 『それ』を振り返る僕を気にも留めず、『それ』はしげしげとカレンダーを眺めたまま、独り言のように続ける。 「あと一週間もすりゃ、気分は春だな」 ――あと一週間もしたら、なんとなく、春って感じだね ――って、まだ寒いけど 突如耳の奥に甦った会話。 春が待ち遠しいね、と、笑いあった、あれは。 僕の時が止まる、前の日の事。 僕はカレンダーを眺める『それ』を放ってモップを手に取った。 ようやく何回と繰り返した「日常」に戻って、僕は今日に浸る。 抜け出せない二十二日の中でいくら暴れようと、それはあまりに無意味なのだから。 PR |