文字とか絵とかもうなんでもありのたらたらブログ。 主に創作や版権感想など。予告なく過激表現が出現する危険もあります。御了承ください。
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普通に自分の予告をスルーしてた。
二月最後の一週間で連続更新がなんだって?(ニコ!) …すんません。 いろいろすんません。 続きから、二十一日に載せようと思ってた序章、 二十二日に載せるつもりだった第一章。 『358日の今日と、7日の今日たち』
序章 三百五十八日に及ぶ今日の事 冬に、大切な人を無くした。 それ以来、僕の時は止まっている。 朝、目を覚まして歯を磨き、顔を洗い身支度を整える。 毎日毎日、同じように繰り返し続ける過程。 そこに部屋の掃除を加えれば、それで自分の一日は終了する。 今は一体何時なのか、それが自分には解らない。 部屋には時計がない。 携帯電話は、いつだったか電源が切れた時のまま、どこかに置いてある。 唯一時を示すものは、壁に掛かったカレンダー。 白く雪に覆われた山を背景に、真っ赤な南天がまぶしく存在を主張する。そんな写真を背景とした二月のものだ。 日付の上には、一つ一つ、赤いマジックでバツが書かれている。二十一日までバツで潰され、それからもう、日付は動かない。 こたつにストーブ、クローゼットの中には冬物の服。 静かな部屋の中で、日が沈むまで起きて、そして眠る。 今日も、明日も、明後日も、ずっとずっと今日のまま。 時間は、歩みを止め、ただひたすら繰り返す。 二月二十二日を。 第一章 2月22日 きっと本当は冬が過ぎ、春が来て夏も去っていったのだろう。 けれど俺の部屋は、冬のまま、俺の心も、冬のままだった。 何度目かの二十二日に目を覚ますと、当然のように『それ』はいた。 腕を組み、足を組み、ひどく偉そうな態度で宙に浮いた『それ』は、唖然とする僕を、手のひらほどしかない身長で見下した。 「オレ、一週間で消えるから」 「……は」 たった一言、そう言うのがやっとだった。 そしてそれから、声というものを出すのが酷く久し振りだったことを同時に思い出す。 「お前は、一体、」 「だぁから、」 言い切らぬうちに、『それ』は鬱陶しそうに眉をしかめた。 「一週間で消えるっつってんだろ。オレのことは妖精みたいなもんだと思っとけ!」 ヨウセイ、ようせい、要請、……妖精? ……はぁ? だが何か言おうと口を開く前に、『それ』はまたしても癇癪を起したような口調で喚きだす。 「いいか!?もう一度だけ言うぞ、オイ、もう言わねえからな!オレは妖精みたいなもの、一週間で消えてやる! 分かったらボサっとしてねぇでさっさと顔洗って歯ァ磨け!」 そして僕の背中を、蹴る。 「こら、痛いだろ」 そうは言ったが、本当はあまり痛くなかった。 それでも、それは確かに、久々の痛覚だった。 とにかく、言われたとおりに身支度をする。 歯を磨き、顔を洗い、服を着替える。 いつも通りの過程の筈。なのに何故だか妙な気がした。 身なりを整えて居間に戻ると、やはり消えずに『それ』はいた。 部屋に入ってきた僕をじろりと見まわし、大きな目を半分にした後「ふん」と息を吐く。 「なんだよオマエ、その恰好」 「え」 ジーンズに、シャツにカーディガン。何らおかしい所は無い。 そして、 「これは、僕の勝手だ」 モスグリーンの、毛糸のマフラー。あの時から、眠る時とシャワーを浴びる時以外に外したことは無い。 冬は、寒いから。 そう言うと、『それ』はわかったようなわからないような顔をして、もう一度、「ふん」とだけ言った。 それから僕は、僕の生活通りの生活をする。 モップを持ち出して床の掃除をする間も、『それ』は移動する俺の周りを飛び回って何だかんだと文句をつける。 「オマエなあ、もうちっと根性入れて掃除しろよ!」 「うるさい」 「んだとぉ?」 「……わかったよ」 言われたとおりに少し力を入れれば、『それ』は満足したようにふらふらとどこかへ飛んで行った。 ……何なんだ。あれは。 止まった時間の中に簡単に入り込んできた『あれ』 そして『あれ』を簡単に入り込ませた、僕。 一体、何なんだろう。 「なぁ、おい」 いつもより幾らか丁寧な掃除を終えた僕のに、どこに行っていたのかふらふらと飛びながら『それ』が呼びかけた。 「オマエさあ、今何時か分かるか?」 「知らない」 この家には、時間を示すものは置いていない。 僕はいつでも二十二日の中にいるし、僕にとっての時間は、日が出ているか沈んでいるかしかない。 だから、僕は今がいつかは知らないし、知る必要も、無い。 すると『それ』は僕を見下ろしたまま、怪訝そうに片眉を跳ね上げた。 「オマエは阿呆だな」 「な、」 何を突然、と言おうとした。だがそれより早く、『それ』はくるりと僕に背を向けて、こたつの天板に着陸した。 「おい待て」 何に対しての「待て」だったのかは分からない。ただ何か漠然とした予感に、僕は声を上げた。 ただ、『それ』は僕が「何か」を待たせようとする前に、片足を振り上げて、そして、「何か」を思い切り踏みつけた。 「――待てッ!!」 何故、何を、僕が止めようとしたのか、分からない。 分からないが―― ブゥン、と低く何かの起動する音が聞こえた。 「――あ、」 薄く、埃を被った「箱」。 僕の目の前で、それに光が宿り、像を結び、音を持つ。 「おい、阿呆でも分かんだろ。コレは、何だ?」 「……テレビ、」 そういう物があったことを、何故だか僕は忘れていた。世界と自分を繋ぐ、情報公開機。 画面は、どうやらニュースのものだった。 男の人と女の人が一人ずつ、一礼した後、女の人が口を開く。 『二月二十二日、午後一時のニュースをお伝えいたします――』 ――何だって? 続けて女の人が何か言い、画面の下にはテロップが流れる。だが、そんなものはもう耳にも目にも入らない。 「へぇ。やっぱ便利だな、テレビはよ。二十二日の午後一時な」 つまらなそうに呟いて、もう一度リモコンの電源ボタンを踏みつける『それ』のこれだけがやけによく響いた。 光を失った箱は、もう何も言わない。 だが。 僕はカレンダーを振り返る。 真っ白な山、真っ赤な南天が鮮やかなカレンダーの、二十一日までついたバツ印。 今日は、二月二十二日。 僕の時は、二十二日で止まっている。 けれど。 けれど本当は、冬が過ぎて春が来て、夏も去って行った筈で。 けれど、本当に、 「時間が、」 「お前は阿呆じゃねえ、莫迦か」 唐突に、声が僕を引き戻した。 「時間が止まる?寝ぼけたこと言ってんじゃねえ。そンな話があってたまるか。あのな、世界っていうのは、オマエが思ってるより、ずっとずっと勤勉なんだよ!」 そういってトン、と蹴り飛ばしたのは、カレンダーの年度が書かれた場所。 ――ああ、と僕は理解をした。 「分かったか、莫迦」 「……ああ」 そんなに、経っていたのか。 「分かりゃいいんだ。それで」 満足そうに腕を組む『それ』に肯く僕の内側で、しかし別の感情が動き出す。 僕は、ずっと二十二日の中にいたんじゃないか。 だから、今日が二月二十二日であって何がおかしい。当然じゃないか。 そう。僕は二月二十二日で立ち止まり続けている。 何らおかしいことは無い。 僕は、あの時から歩みを止めたんだ。 PR |